第3章 船長命令だ
酒場に向かう道中、すれ違う人全員にお礼の言葉を言われ頭を下げられる。
悪い気はしないが、もはやそんな事はどうでもいいロー。
誘ってみたものの、その後揶揄ってあんな顔をさせてしまった相手が、本当に酒場に来るのかと不安に思いながらも酒場に足を向ける。
そんなローの不安を一掃するかのように、目的地である酒場の入口には、手をヒラヒラとさせこちらに笑顔を向けるコノハの姿。
思わず口元を綻ばせ酒場に入っていく。
「さあさ、飲んで!この島自慢の樽酒だよ!」
「食べる物ならたくさんある!遠慮しないで食べてくれ!!この野菜はうちの島でしか育たないんだ!」
「君たち、本当にありがとう!こんな事でしかお礼できないけど…」
酒場に入るや否やシャチの言う通り熱烈な歓迎を受けるロー達。
村中の人が酒場に集まり、食べ物やお酒を持ち込んでは感謝の言葉を口々に言う。
自然とローの隣に座ったコノハは、村の人たちと仲が良いのか笑顔でお酒を飲みながら会話をしている。
「はいはい、船長さん。この子を旅に連れて行ってほしいと言ったら、困るかね?」
テーブルの端に座るローは、隣にいるコノハとは反対の方向から聞こえる声に視線を向けると、そこには薬品の匂いに身を包み白いヒゲを蓄えた老夫が立っていた
「…お前がコノハの面倒を見ているヒゲじいとやらか……。旅に連れて行くとはどういう意味だ?」
随分歳の離れた男に突然お前と言われて一度驚いたような顔をするその老夫は、にこりと微笑む
「はいはい、その通りです。今じゃ私が面倒を見てもらっている立場なんだけどね。」
ホホホと嗄れ声で笑う老夫に呆れ顔で酒を口に運ぶロー
「今日の昼、あの子が急ぎ足でワシの所に来てね。
昨日の夜お宝を返しに来てくれた君たちが、夜酒場に来るから盛大にもてなすよう村のみんなに伝えてくれ、と。昨日もてなした事を伝えたんだが、しきりに君の事を口にして気にするもんでね。
もちろん君たちはこの村の大恩人だ。快く了承したよ。」
目の前で笑う老夫の言葉に思わず息を飲む。
今まさに隣で自分の仲間たちと楽しそうに話すコノハが、裏でそんな風にしていたことは自分含め仲間でさえも誰も知らなかった。
そして自分の事を気にしていたという彼女に、自然と胸が鳴る。