第3章 船長命令だ
怒りで心臓を鳴らしながらローの部屋に向かったのに、部屋を出た自分は今別の意味で心臓が鳴っている。
目眩にも似た感覚を覚えながら、力が抜けるようにその場に座る
「…っはぁ〜……。びっくりした…。何あの色気。私と同い年で、しかも男の人なのに、私よりも色気ある………うぅ…。」
鍛え抜かれた肉体。その上に刻まれたタトゥー。妖艶とも言える雰囲気。
つい数分前の事を思い出し目に浮かぶのは、昨日自分の話を優しい眼差しで聞いていたローではなく、知らない彼の一面。
近付いてくるローに心臓が鳴り響き、体中の血液が顔に集まるのが自分でも分かったコノハ。
目に浮かぶ光景と、色々な感情を振り払うかのように頭を振ると、その場を立ち上がりデッキへ向かう。
「っアレ?熱でもあるのか?顔赤いぞー?」
デッキへ戻ってきた人物の顔を覗き込むと目は潤み、耳まで真っ赤な顔をしているコノハ。
大丈夫だよと笑ってごまかすコノハに嘘が下手だと思いつつも、彼女の笑顔に釣られてそうかと笑うシャチ
「キャプテンの部屋には行けた?また失礼なことを言われたんじゃないの?大丈夫?」
頭を撫でながら心配そうに見てくるベポに、真実を言われドキリとするが、必死に笑顔を貼り付けて首を振り、口を開くコノハ。
「みんな、心配ありがとう!でも大丈夫だよ。用事を思い出したから、家に戻るね!」
逃げるようにその場を立ち去るコノハにペンギンが大声で叫ぶ。
「夜、酒場で集合だからなー!コノハが来ないと、絶対キャプテンの機嫌悪くなるから、必ず来いよー!!」
コノハが部屋を出て行った後、天井を目に映し大きな舌打ちをするロー。
別に困らせたかった訳でもなければ泣かせたかった訳でもない。
少し揶揄ったつもりが、彼女は目に涙を浮かべ自分を睨み上げていた。その表情を見た時、自分の浅はかな発言に後悔しつつも、コノハが口にした誰かとキスの経験があるという言葉に苛立ちさえ覚えていた。
ローは、己の失礼な発言にショックを受けコノハが傷付き、泣きそうな顔をしていたと思っている。実際は恥ずかしさから目に涙を浮かべていただけだというのに。
船内には、そんな2人を笑うかのように鴎の鳴き声が響き渡る。