第15章 どなたでしょうか
「ねぇ、ベポ。ちょっと聞いてもいいかな…」
瞬く間に変化するコノハの表情。
「うん…?どうしたの?」
そんなことは慣れっこなのだが、ついさっきまで笑っていたコノハが一気に神妙な面持ちになり、たまらずベポは体を起こした。
「あの…」
何か気になることがあるのだろうか。
コノハの瞳が一瞬揺れ、視線が床に落とされる。
「あの…前の私から、好きな人とか恋人の話とか…聞いたりしたことある…?」
床を見つめたままコノハは言った。
自分の記憶が正しければ、誰かを好きになったことなんて一度もなかった。
でも一体いつ私は…
誰かを好きになり、この力を使うと決めたんだろう…
「あ〜…う〜ん……」
そう来たか…
空を映すベポの瞳が小さく揺れる。
「…そうだね、あるよ。」
話を聞いたというかなんというか…
2人はいつも一緒にいたからなぁ。
「えっ…、そう、なの…。それって好きな人?恋人…?」
「………恋人だよ。」
「あ、あぁ…そう、なんだ…」
せめて、好きな人だったら良かったのに。
肩を落としたコノハの眉間に皺が徐々に寄っていく。
記憶がない私のせいで、急にひとりぼっちになってしまった恋人は一体どんな気持ちで…
想像するだけで胸が引き裂かれたように痛む。
でも…
「そっか…」
その人の為に力を使ったのなら。
それはそれで良かったのかもしれない。
「コノハ…」
大丈夫だよ。
あの人は…キャプテンはちゃんと分かっている。
愛するコノハを守る為に、今は何も言えないだけ。
ごめんね、ボクからは何も言えないんだ。
「いつか分かるよ。」
時が来たら…必ず分かるから。
ベポはその名を言ってしまいたい気持ちをグッと堪え、少し震える手を優しく握った。
柔らかい肉球が重ねられ、コノハがベポの方へ顔を向ける。
多分、ベポは相手を知っているのだろう。
それでも言わないのはきっと何か理由がある筈。
相手の立場や気持ちを尊重しているのかもしれない。
「ベポ、ありがとう。」
そんな心の優しいベポに、これ以外の言葉は見つからなかった。
そして
「大好き。」
やっぱりこれ以外の言葉も見つからなかった。
眩しいほどの笑顔を向けられ、ベポは堪らず小さな体を抱き締めた。