第15章 どなたでしょうか
すかさずローはコノハを抱き締めた。
心にもう迷いは無い。
コノハの目を見て気付かされたのだ。
寄り添うのが最善だろうと。
「お前は……クルー達の食事や洗濯、身の回りのことを沢山やってくれていた。もちろん薬だって作ってくれていた。お前が作った薬に命を助けられたヤツもいる。」
いきなり腕に収められたコノハは、突然のことに驚きながらも体を預けた。
よほど自分は仲間を信頼し、大切にされていたのだろう。
それなのに何も思い出せなくて、不甲斐なさが遂に頬を濡らした。
声を出してしまえば止まらないような気がして、言葉の代わりにひたすらコクコクと頷く。
「…不安なのは分かる。目が覚めたら知らない場所で、知らないヤツらが目の前にいるんだ。でも思い出せないもんは仕方がねェ。…時間を掛けて思い出していけばいい。」
クルーのことも。俺のことも。
そんな言葉の代わりにローは少し強くコノハを抱き締める。
「…っ、はい…」
大丈夫だ、なんとかなる。
小さくも確かに呟いた言葉がじんわりとコノハの心に広がっていく。
それは感じていた孤独感を埋めるように、緊張していた心をほぐすように、コノハの涙を誘った。
「好きなだけ泣けばいい。」
いくらでも受け止めてやるから。
ローはその後コノハが落ち着くまで静かに小さな体を抱き締めていた。
「…ありがとうございます。」
震えていた体は次第に落ち着きを取り戻し、2人の体が自然と離れていく。
「急に泣いてしまってごめんなさい…。ビックリしましたよね…」
好きなだけ泣いていいと言われ、本当に気の済むまで泣いてしまったコノハは恥ずかしさを隠す為にヘラリと笑った。
ローはそんな砕けた笑顔に、もう何度目か覚えていないくらい心を奪われている。
「いや…」
相変わらずというべきか…
やはり記憶を無くしてもコノハはコノハ。
根本的なものは何一つとして変わっていない。
今まで通り表情をコロコロ変えるコノハにローは胸を撫で下ろした。
「お前が泣くことには慣れている。それに…謝ることじゃねェ。」
そしてコノハのことを、より一層愛おしく思えた。