第15章 どなたでしょうか
「信じられないかもしれないが、俺は本当に医者だ。」
「あの…さっきから何故私が思っていることを…?」
聞かずにはいられなかった。
泣きそうになっていたことも、本当に医者なのかと疑ったことも。
どれも心を読んでいるかのように言い当ててくるから。
顔に何か書いてあるのではと頬を擦ってみるが、もちろん顔など汚れていない。
「…お前の考えていることは、大抵分かる。」
私がおかしいのだろうか。
その顔は仏頂面だというのに、少し笑っているようにも見える。
「質問は一旦終わりだ。」
優しげなその瞳は次第に真剣な瞳に変わっていく。
ローは一度天井を見つめた後、ふぅっと小さく息を吐いた。
「さっきも言ったが俺らは海賊団で、お前もクルーの1人。この前上陸した島でたまたま戦闘があってな…それに巻き込まれたお前は運悪く頭を打った。記憶が無いのはそのせいだろう。」
「そ、そうだったんですか…。あの、私はどうやってみなさんの仲間に…?」
「お前の故郷…ホッ島でな…。まァ、その、なんだ…成り行きだな。」
「そう、ですか…」
「あぁ。だからお前のその手の力のことも、両親に何があったのかも全て知っている。」
にわかには信じられなかった。
あれだけ用心深く手の力を他人に隠してきた私が、この人達にそれを話したということが。
「記憶を無くす前の私は…よほど皆さんを信頼していたんですね。」
「ま…そういうことになるな。だが信頼していたのは何もお前だけじゃねェ。俺も…アイツらもみんなお前のことを信頼していた。」
それなのに私は……
何も思い出せない。
「私は…何かみなさんの役に立っていたのでしょうか…」
ローが視線を上げると今にも泣きそうな顔をしたコノハがこちらを見つめていた。
苦しそうな、悲しそうな目をしたコノハにローの胸の奥が締め付けられる。
「ッ…」
抱き締めたら安心を与えられるだろうか。
しかし、コイツを守れなかった俺にそんな権利はあるのだろうか。
寄せては返す波のようにローの中で繰り返される葛藤。
「キャプテン…?」
その声にハッとしローは顔を上げた。
あと一回、まばたきをすればその瞳からは涙が溢れるだろう。
揺れる瞳がローの背中を押す。