第15章 どなたでしょうか
さきほどの忙しない空気とは打って変わって静かな医務室。
コノハは1人、ぼーっと天井を見つめていた。
「…っ、思い出せない……」
みんなが誰なのか。
そして一体ここはどこなのか。
何一つとして思い出せないのだ。
起きた時に私を抱き締めてくれた白いクマも、笑顔で話しかけてくれたあの人も、心配そうに抱き締めてくれたあの人のことも……
「やっぱり思い出せない…」
それでも私がみんなの仲間だということは本当らしい。
目を覚ました時のみんなの目が…とても温かかったから。
どうしようもない心細さと孤独感が襲い、体が小さく震える。
コノハはそれに耐えるようにシワ一つないシーツをぎゅっと握った。
『愛する人は見つけたようね』
ふと過る懐かしくも優しい母の声が涙を止める。
「お母さん…」
会いたいよ。
バタン
「?」
「気分はどうだ。」
コノハがその声の方を見るや否や、声の主は歩調を速めてこちらへ向かってくる。
「泣いていたのか…?」
まるで子どもに聞くように。
その声は優しかった。
「い、いえ、泣きそうにはなってたんですけど、泣いてはいない…です。」
そうかと一言放ち、ローはベッドの横に腰を下ろした。
「聞きてェことは山ほどあるだろうが、まずは質問に答えてくれるか。」
この人は一体…
「言い忘れていたが、俺は医者だ。」
心を読み取ったかのようなローの一言に、コノハは一瞬目を丸くした。
「あっ…はい。それで質問っていうのは…?」
「まずはそうだな……」
手に持つ紙はカルテだろうか。
キレ長い目が文字を追いかけ、更にコノハがそれを追いかける。
「年はいくつだ。」
「…22歳です。」
「目が覚める前の最後の記憶は?何をしていた?」
「ホッ島のひげじいの…あ、おじいさんのお店を…薬屋を手伝っていました。」
質問に答えている間もローは慣れた手つきで紙に何かを書いていく。
医者っていうのは本当だったんだ…
無意識にそんなことを考えながら手元を見ていた。
すると紙の上を走っていたペンがピタリと止まった。