第15章 どなたでしょうか
今しがた耳にした言葉に船内は一気に静まり返る。
『どなたでしょうか』
それは壊れたカセットテープのように、ローの頭の中で繰り返される。
「コノハ!じょ、冗談キツイぜ!面白くねぇよ!」
「コノハ…本当にボクたちのことが分からないの……?」
「オ、オイ、嘘ならもっとマシな嘘に…」
ローを置いてけぼりに飛び交う言葉。
コノハは眉尻を下げ、不安な表情で各々を見渡す。
「本当に…分からないんです…。
皆さんが誰なのかも、ここがどこで、どうして自分がここにいるのかも…」
私は一体…
そして何故あなたはそんな目を…
コノハがベッドの脇に立つ人物を見上げると、その男はそれはそれは悲しい目をしていた。
しかし大きな瞳がこちらを見ていることに気が付くと、ハッとし眉間に寄っていた皺が更に深く刻まれる。
「……自分の名前や故郷は覚えているか…?」
強い吐き気に襲われながらも、ローはその瞳を真っ直ぐ見つめる。
「あ、えっと、名前はコノハで、故郷はホッ島です…」
「そうか……」
そうだ。その通りだ。
「それで、あの……みなさんは…?」
コノハの言葉に、クルー達はまたも顔を曇らせた。
「俺らはハートの海賊団だ。俺は船長のトラファルガー・ロー。お前は…」
俺の…いや、
「お前は……ハートの海賊団。………この船のクルーだ。」
締め付けられるような胸の痛さに耐えるかのように、ローはギリっと奥歯を噛み締める。
しかしクルー達の心情も穏やかではなかった。
「キャプテン…!!」
何かを言いたげなペンギンが勢いよくローへ振り返る。
「……っ!」
あぁ、せっかく正気が戻ったというのに。
冷たく、少し揺れているように見える瞳にペンギンもそれ以上は何も言えなかった。
「…クルーってことは、私はみなさんの仲間ということですか…?」
「あぁ。そう…だ。」
仲間という言葉に安堵したのか、コノハの表情が少し柔らかくなる。
「…少しだけここで待っててくれるか。コイツらに…話があるんだ。」
自然に頭へ伸びそうになった手が空を掴み、固く握られる。
「すぐ戻る。」
ローの言葉に安心したのか、コノハがコクンと頷いた。