第15章 どなたでしょうか
何日ぶりかに風呂に入ったローは、ドカっとソファーに腰を下ろす。
「医者だというのに不衛生極まりねェな…」
自嘲気味にふと笑い天井を見上げた。
あの時のコノハのあの状態は一分一秒も惜しかった。
だから一刻も早く船に戻りたかった。
それでもまずは、自分の大切な人を傷付けた男たちを殺さないと気が済まなかった。
そしてなにより、この島に上陸してから妙な胸騒ぎがあった。
「お前ェら一体誰の指示だ。」
コイツらだけの仕業じゃないのは明らかだった。
タイミング良く鳴った電伝虫。
ローが離れた途端消えたコノハ。
『俺らの船長だ…』
喉元を抑えられ苦しそうに男が漏らす。
「詳しく話せ。」
冷たい目が畳み掛けた。
ローは、男の話を聞いて目を大きく見開いた。
全てはコイツらの船長…
そう、不覚にもホッ島で心臓を返してしまった…
あのムカつく野郎の仕業だそうだ。
今まで忘れていた、そんな奴がいたことも。
そしてこの島はアイツの縄張り。
宝を横取りされた腹いせなのか、あの野郎が俺に仕返しをする為に、あの時ふと見えたタトゥーから俺を割り出す為に、この島にいる者は全員水着でなければいけないというふざけた規則を作った。
『なんかこの島の偉いヤツが人を探してるらしいっス。その探し人が体にタトゥーが入ってるとかなんとかって…』
シャチの言葉が引っかかったのもこれが原因だったのか。
こんな広い海で俺らがこの島に辿り着くなど、確率で言えば1%にも満たないのに、俺はその1%を引いた。
妙な胸騒ぎは見事に的中した。
しかも最悪の形で、だ。
ただ不幸中の幸いか…
本来ならばコノハを攫った3人はそのまま自分たちの船長、いや、ムカつく野郎の元までコノハを連れて行く手筈だった。
だが下衆のような感情を優先し、道草を食ったおかげで俺たちはあそこに辿り着けた。
もしもあのムカつく野郎の所まで連れて行かれてたら…
コノハを失っていたかもしれない。
いや、どっちに転んでも最悪だった。
俺があの時心臓を返さなければ…
ローは拳を固く握り、怒りに満ちた目でその先を見つめる。
いずれ、あの野郎には一矢報いる。
机に置かれたキューブ型の3つの心臓が波のように脈打つ。