第15章 どなたでしょうか
「…早く目を覚ましてくれ……」
いつの間にか夜が開け、窓から溢れる朝日がその美しい顔を照らす。
コノハの意識が戻らないまま1週間。
あの日船に戻ってきたローはコノハを自らの手でオペし、それからというものずっと医務室に篭っている。
点滴を補充したり容体を確認する傍ら、風呂に入れない体を優しく拭き、いつ目が覚めてもいいようにとコノハの側にずっといるのだ。
心的なものからか…
コノハは依然眠ったまま。
しかし、自分はというと1週間もろくに寝ていないせいか、脳も体も正常に働いていない。
「チッ…」
鈍い音を立てて落ちた本を拾い上げるも、大した厚さでもないのに岩のように重く感じた。
そして誰かが部屋に入ってきたのか…
振り返る気力も今のローには残されていない。
「キャプテン、俺たちがちゃんとコノハを見てますから、今日こそは寝てもらうっス。」
この声はシャチか。
いやシャチ1人ではないな…
「いや、必要ねェ。俺がコノハをー
「キャプテンが倒れたらどうするんすか?飯もろくに食べないで…今襲撃でもされたら、この船は間違いなく沈むっす。」
やっぱりシャチ1人ではなかった。
ペンギンの一言にこめかみに力が入る。
が、これ以上反論する気力も無いのは確か。
「……なら今日だけはお前らに任せる。何かあったらすぐに俺を呼べ。」
それにペンギンの言う通りだ。
このままだと思考も何もかもが鈍る。
ローはふらっと立ち上がり、医務室から出て行った。
おぼつかない足取りで向かうは自室。
マイツリ島に滞在していたのは1ヶ月。
もはや自室から石鹸の匂いは消えていた。
「クソ…」
心が、体が、コノハを思い出す。
今すぐお前の声が聞きたい。
今すぐお前の笑った顔が見たい。
今すぐ壊れるまで抱きたい。
この部屋には思い出がありすぎる。
いつから俺はこんなに弱くなったのだろうか。
アイツが…コノハがいない人生は、もはや意味など無いのでは、と野望や夢さえ諦めそうになってしまう。
「コノハ……」
頼む。早く起きてくれ。