第15章 どなたでしょうか
あの時のことは鮮明に覚えている。
やっとコノハの居場所を突き止めホッとしたのも束の間、扉の先に広がる光景にその場にいた全員が息を飲んだ。
口から泡を吹き、床に転がる2人の男。
あと1人はただ一点を見つめていた。
そしてコノハはというとーー
「コノハ……ッ!!」
気付けば部屋の隅に座る小さな体を抱き締めていた。
「おい、どうした!」
虚な目をしたコノハは何も言わない。
ただ、腕の中で小さく震えていた。
良かった。
とりあえずは、生きている。
だが、一足遅かった。
「イッカク…!お前が着ているラッシュガードを貸せ!」
「あっ、アイアイ!」
ただ事ではない事態にイッカクの声が裏返ったが、そんなことは気にも留めない。
未だ震える体を強く抱き締めると、コノハは安心したのかゆっくりと目を閉じる。
そしてそのまま小さな体をイッカクに託す。
ザッ、ザッ
サンダルの擦れる音が静かな部屋に響く。
そしてその音がピタリと止まった。
「お前らコノハを連れて今すぐ船に行け。」
でも、と言いたげなペンギンの肩にシャチの手が置かれる。
背中で語るキャプテンにシャチはいち早く心情を察知したのだ。
コノハには聞かせたくないんだと…
そしてクルー全員が部屋を出るのを確認するとローは深く息を吸った。
「テメェらアイツに何しやがった!!!」
脳天を指すような怒号が扉の外まで響く。
日頃冷静沈着なローも落ち着てなどいられなかった。
「…おい、聞こえてるんだろ?」
サングラスの横で震える男が声の方を見やる。
「ひっ……!」
冷気を放っているのかと錯覚するほどヒンヤリとした部屋。
その目は冷酷で、まるで鋭い物で刺されているかのような感覚に陥る。
「俺らはー ぐぇッ…!」
男が何かを言いかけた刹那、髪を掴まれその体は壁に叩きつけられる。
「フーッ…フーッ…」
この男に理性など残っていなかった。
愛する人を傷付けられ、人の形をした何かに成り果てていた。