第15章 どなたでしょうか
ポタ、ポタ
静かで薄暗い部屋。
正気の無い目がタオルから滴る水を追いかける。
「……。」
ゆっくりと落ちていく水はまるで誰かの涙のようで、ギュッと心臓を鷲掴みにされたような痛みが襲う。
「…テン、キャプテン。」
柔らかい肉球が肩に触れ、意識が戻される。
「…ベポ、どうした。」
もう何日も寝ていないローの目の下に広がる深く濃い隈。
「お願いだから、少しは寝てよ。」
「…いや、いい。」
放っといてくれ。
ベポの心配をよそに、ローは横たわる小さな手を握った。
ご飯もろくに食べず医務室に籠る船長。
こんな弱い船長を見るのは初めてだ。
いつも自信に満ち溢れていて、弱いところなんか見せられたことが無い。
そんなローを咎めることも出来ず、ベポは床に視線を落とす。
「…みんな心配しているよ。明日は絶対寝てね。」
そう言い残し部屋から出て行った。
バタンと扉の閉まる音を確認して、目を瞑ったままの彼女の頬に手を伸ばす。
「頼む。目を覚ましてくれ…。」
消え入りそうな声が闇夜に呑まれる。