第14章 あの人だけのものだから
遥か向こうの地平線をぼーっと眺めていると、突如肩に衝撃が走った。
「痛っ…」
「あっ、スイマセン!!」
よろける体をなんとか起こし、声の方を見やる。
「目が見えなくて…スイマセン。」
サングラスをかけた男は深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそ邪魔な所に立っていてごめんなさい!」
つい周りも見ずにぼーっとしてしまっていた。
こちらも釣られて頭を下げる。
「僕の方こそスイマセン。…あの、ちょっと図々しいんですが道を聞いてもいいですか?」
出会って数秒だと言うのに謝罪の言葉を既に3回も口にしているその人物は、申し訳無さそうに頬を掻いた。
「私この島の住民ではなくて…知っている場所しか案内できないけど、それで良ければ。」
ただでさえこの辺りは人が多い。
少しでも力になれればいいけど…
「本当ですか!ここって広場ですよね?ここから一番近い本屋に行きたいんです。」
それならお安い御用だ。
なんせこの1ヶ月、ローに嫌な顔をされながら何度も通い続けた本屋なのだから。
「そこなら知っています!ご一緒しますよ!」
「あぁ、本当に…!助かった。」
早々にローの言いつけを破る事になってしまうが、ちゃんとワケを話せば分かってもらえるはず。
「それじゃ、私に掴まってください。」
そんな甘い考えを、私は後に後悔することになる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しばらく歩いて角を曲がったところで路地へ入った。
目の先には本屋。
ここ1ヶ月で何度通ったのだろう。
「もう着きますよ。」
声を掛けるために後ろへ振り向くと、男性はこちらにニコリと微笑んだ。
西陽に照らされたサングラス。
微かに透けて見えるその目は、私ではなく私の背後を真っ直ぐ見ていた。
「ありがとう。助かったよ。」
瞬間、全身の肌が粟立った。
この人、本当は目が見えてるんじゃ…
「オメー、遅かったなぁ。」
背後から聞こえる別の声に、体がいち早く反応する。
「っ、助け…!」
ドンッ
でも気付いた時には何もかもが遅かった。
頭部に走る鋭い痛み。
殴られたのだろう、衝撃で体が地面に倒れていく。
(ロー……)
遠くなる意識の中、最愛の人が頭をよぎった。