第14章 あの人だけのものだから
そんなこんなで、早いものでマイツリ島に上陸してから約1ヶ月が経った。
この1ヶ月何をしていたかと聞かれれば、相変わらず食べては飲んでを繰り返し、本を読み、島の観光をしていたと言ったところ。
毎日が楽しくて刺激的。
それでもやっぱり船での生活が恋しくなったりもして、明日からまたあの船に乗れると思うと、心がワクワクする。
あぁでも、やっぱりワクワクするのは今日の花火だ。
「あと1時間くらいで始まるみてェだな。」
「間に合って良かった!楽しみだね!」
出航を明日に控えた私たちはついさっきまで荷造りや必要物資の点検などに追われていた。
気付けば日は落ちかけていて、街の高台から見渡す海は綺麗なオレンジ色に染まっている。
ただただ広い大海原。
少し前まで小さな島で生活をしていた自分が、今この海を旅しているなんて未だに夢のように感じてしまう。
あの時ローに出会っていなければ、私は一生あのままだったかもしれない。
「ロー、ありがとうね。」
感謝なんて、してもしきれない。
あなたのことだから礼なんていらないと一蹴しそうだけれど。
……
………?
返事が無い事に首を傾げ隣を見る。
「オイ、誰だお前は。…あぁ?よく聞こえねェ。」
いつの間に電話をしていたのか、その手には電伝虫が握られている。
ノイズが走っているせいで相手の声はよく聞こえない。
人の多いこの場所が余計にそうさせているのかも。
「チッ。」
人の多さか、声が聞こえないからか、はたまた気候に対してか…
ローに募るイライラがひしひしと伝わってくる。
「悪ィ、コノハ。ちょっと1人で待てるか。ここじゃ人が多すぎて声がよく聞こえねェ。」
向こうで電話をしてくると指を示すローに頷く。
「うん、大丈夫。ちゃんと待てるよ。」
ここから動かなければいいだけ。
そんなの子どもでも出来る事だ。
「すぐ戻る。絶対動くんじゃねェぞ。」
「もうっ、分かってる。ホラ、早く行ってきて?」
どこまでも心配性なんだから…
「あぁ。」
頭をポンと撫でられ、ローが人混みに紛れていく。
まったく、子どものような扱いはいつまで続くのやら。