第14章 あの人だけのものだから
ローとペンギンの攻防戦を笑いながら見ていると、隣にイッカクが座ってきた。
「ほらほら我慢しない!ちゃんと食べて!」
「むぐっ!」
容赦なく口に肉を放り込まれてしまった。
「どう?美味しいでしょ?」
弾力のある塊を奥歯で噛めば、肉汁がじゅわりと溢れ出る。
ちょうど良い塩味と鼻から抜ける香草の香りが癖になりそうだ。
「うぅ…おいひすぎる…」
「でしょ?おかわりは?」
さっきまで量を減らすと言っていたのに、この一口でコノハにエンジンがかかる。
「いる。」
やっぱりコノハはこうでなくちゃ。
イッカクもまた、ローと同じく彼女の食べる姿が好きなのだ。
そして数十分後。
コノハはようやくフォークを机に置いた。
「美味しかったぁ。」
「良かったわね。見てるこっちがお腹いっぱいになっちゃった。」
コノハの大喰らいは見てて清々しいほど。
いつも通りの様子にイッカクは胸を撫で下ろした。
「キャプテン、ちょっといいスか。」
食べる事に夢中になっていて全然気付かなかった。
今まで遠くの席にいたはずのシャチがいつの間にかペンギンの隣に座っていた。
「あぁ、どうした。」
こっぴどくペンギンを叱ったローがシャチを見やる。
「この島で水着を着なくちゃいけない理由なんスけど…」
理由など考えてもみなかった。
確かに気になる。
「なんかこの島の偉いヤツが人を探してるらしいっス。その探し人が体にタトゥーが入ってるとかなんとかって…」
タトゥー…
いつも自分の一番近くにいる人物はそれを有していて、咄嗟に隣に座るローを見上げる。
「…そうか。だがその偉いヤツってのは一体何者なんだ。」
「いやァ、それがよく分からなくて…」
そう言ってシャチは申し訳無さそうに頭を掻いた。
「タトゥーか…」
見ての通りこの体にはタトゥーが刻まれている。
シャチの言う偉いヤツってのが何を企んでいるのかは分からない。
心当たりなど到底無いが、警戒しておいて損は無いだろう。
「お前ェら気を抜くなよ。何があるか分からねェからな。」
そう言ってローは心配そうに見つめるコノハの肩を抱き寄せた。
この時の彼らはまだ知らない。
まさか、このタトゥーが原因であんな悲劇が起こるとは。
刻一刻とその時は迫っていた。