第14章 あの人だけのものだから
そして現在。
服屋の扉がようやく開く。
「ロー、お待たせ。」
石鹸の香りを乗せた涼しい風が開け放たれた扉から流れ出る。
ローは壁に体を預けたまま、声の方を見やった。
「どう…かな?」
胸や腹を手で隠しながらちょこちょこと近付いてくるコノハ。
隠したら見えないだろ。
小さな手を退けると、その全貌にローの喉がゴクリと鳴った。
コノハが身に付けるのは黒いビキニ。
白い肌によく映え、女性らしい体つきを更に強調させるデザインだ。
そして体のあちらこちらに残る鬱血痕。
その跡は間違いなく自分のモノだと主張している。
「ロー…?変かな?」
怒ってはなさそうだけど…
何も言わず固まるローにコノハが首を傾げる。
「いや、すげェイイ…。」
暑さのせいかコノハのせいか…
素直に飛び出た言葉を隠すようにローが顔を背ける。
「あ、ありがと…。」
ただでさえ暑いっていうのに、恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだ。
まともに顔も見れず俯いていると、腕が腰に巻かれた。
「誰にも見せたくねェんだが…。」
こんな格好を見てしまったら余計だ。
クルーにも、その辺にいるヤツらにも誰にもコノハを見せたくない。
ローの中の独占欲がむくむくと育ち始める。
「なら私、船で待っていようか?」
自分の楽しみよりも、人の気持ちを尊重するコノハ。
彼女なりの優しさにローが首を振る。
「それはダメだ。…もう仕方ねェ。覚悟を決める。」
そうだ、もう仕方がない事。
頭では分かっているのに納得なんかできるハズもなく…
「クソ…」
案の定心の声が漏れ出るのである。
だが、ローも男。
覚悟を決めると言った以上は引き返せない。
「いいか。俺から絶対離れるな。もし知らないヤツに話しかけられても無視しろ、分かったな?」
無視…
そこまでする必要があるのだろうか。
つい口走りそうになったが、そんな目で見つめられては首を縦に振るしかない。
「うん、分かったよ。」
それでローが安心してくれるなら。
「ならいい。そろそろ行くぞ。」
そう言ってローは普段よりも強くコノハの体を抱き寄せた。