第13章 約束して
薄れた意識の中、薬品の匂いと蒸発する音が現実へと引き戻す。
「んん…っ、今何時…?」
いつの間にか寝てしまっていたようだ。
鉛のように重たい体を起こし、壁に掛かる時計に目を向ける。
時刻はもうじき2:00。
最後時計を見た時は確か夕方前だったはず…
やってしまった。
日付が変わった今、出航が明日に迫っているというのに自身の危機感の無さにため息を吐く。
悠長に寝ていた事もそうなのだが、ローにご飯を作ってあげられなかったのが悔やまれる。
「もう寝ちゃったかな。」
ローの事だ。
恐らく何も食べずに寝たのだろう。
本当なら今すぐにでも夜食を作ってあげたいが、今は一分でも惜しい。
作業を再開させようと腕捲りをした時、肩から何かがはらりと落ちた。
「…?」
そこにあるのはローのパーカーで…
(掛けてくれたの?)
ローの優しさを感じつつ床に落ちたパーカーを拾う。
それを膝に乗せたところで机の端に何かが置いてある事に気が付いた。
「ん?」
コノハの視線の先にあるのは皿に乗せられた2つのおにぎり。
おにぎり?一体誰が?
ふと首を傾げたが、今この船には自分とローしか乗っていない事を思い出した。
てことは…
目の前にあるおにぎりは自分の為にローが握ってくれたものに違いない。
「っ、いただきます。」
嬉しさで涙が出そうだ。
手に持つおにぎりを一口かじると、塩の味が口の中いっぱいに広がる。
具なしの塩結び。
少ししょっぱいが、とても綺麗に握られていてローの性格が表れている気がする。
人の手料理など何年振りだろうか。
ローの優しさが身に染みて、気付けば涙を流しながらおにぎりを食べていた。
「っ、ロー…」
ありがとう。
涙を拭ったコノハが再び作業を再開させた。
そして12時間後。
時刻は午後の2:00。
12時間もの間固く閉ざされていた扉がようやく開いた。
「ロー…!」
自室前で本を読んでいるローに小さな体が駆け寄る。
ローの瞳に映るのは満面の笑みのコノハ。
この反応は…
「完成したのか…?」
「うん!!」
眩しいくらいの笑顔だ。
弱音も吐かず、たった5日で新薬を完成させるなんて常人では不可能に近い。
「よくやった。」
そう言ってローは栗毛色の頭を優しく撫でた。