第13章 約束して
宿に着き、道中で買った食料に手をつけたコノハとローはその後互いに風呂を済ませた。
「…まだ終わらねェか。」
ベッドの上でローの足の間に座るコノハ。
小1時間ずっとノートに何かを書き込みっぱなしだ。
「よし、終わった!お待たせ!」
腕を上げ伸びをするコノハ。
その手に持つノートをローが奪う。
コノハはそれを追うように体を反転させ、ローの上に跨る。
「まるでカルテだな。」
ノートに記されているのは今日のオペの内容。
ガキの体の状態、使った道具、そしてオペの手順が事細かく書かれている。
「私、あの時ローに最低だなんて偉そうに言っておきながら、オペをただ見てる事しかできなかったから…せめて、見て覚えてその内容を後から見返せるようにしたくて。」
力不足とでも言いたいのか、コノハが視線を落とす。
「お前は準備やらオペのサポートをしてくれただろ。十分じゃねェか。」
それでも不満なのか表情は曇ったまま。
「なァ、コノハ。」
「うん?」
名前を呼ばれ顔を上げれば、サイドテーブルにノートを置いたローと目が合う。
「俺は…あの時お前に言われて目が覚めた。あの時ガキを診てなかったら、間違いなくアイツは死んでた。…救えた命を見放すところだったんだ。」
肩に置いた私の手をローが強く握る。
「俺はお前に感謝している。」
一点の曇りもない瞳。
普段素直じゃないくせに、こういう時は素直なロー。
そういうのを反則と呼ぶのかもしれない。
「じゃあ、一つだけ約束して。」
コノハが両手でローの右手を包む。
「この先、この手で沢山の人の命を救ってほしい。あなたは医者だから…この手は人を救う為にあると思うの。」
今日のオペを見て確信した。
きっと、彼ほどの医者はこの世にいないだろう。
私の力とはまた別の意味でローの手は人を救える。
「あぁ、約束する。」
そうしてローは手の甲にキスを落とす。
「っ……。」
まるで誓いを立てるかのような行為に、コノハは胸を詰まらせた。