第12章 まるで魔法だな
「ったく、油断も隙もありゃしねェ。」
「ごめんなさい…。」
洗いざらい話したコノハは項垂れる。
転んだ時にタンコブが出来たのは触れずとも分かっていた。
なんとかローには隠そうと思っていたが、完全に詰めが甘かった。
いや、そもそもローに隠し事などしようとしたのが間違いだったのだ。
「目眩とか吐き気はねェか。」
そんな事を思っていると、優しく後頭部を撫でられる。
「うん、特に無いから大丈ー
「そうか。なら今すぐお前の力で治せ。」
被せられた言葉に目を見開く。
だって、別に大したことではないのだから…
「別にこのままでも平気だよ?」
「お前が平気でも俺が平気じゃねェんだ。俺が手当てしてやってもいいが、お前の力の方がすぐ治る。」
眉間に皺を寄せたローと視線がぶつかる。
このまま視線を外したら負けるような気がするのは気のせいだろうか。
「…でもー
「でもじゃねェ。元通りに戻せ。」
前言撤回。
やはり視線を外した方が良かったのかもしれない。
鋭い目つきを向けられ観念したコノハは眉尻を下げる。
「分かったよ。」
その言葉に安堵したローが後頭部から手を離すと、コノハはゆっくりと目を瞑った。
静かになった風呂場でコノハが願う。
船内だというのにどこからか柔らかい風が吹き、石鹸の香りが4人を包んだ。
「ふふ、治ったよ。」
目尻を下げ照れ臭そうにコノハが笑う。
ローがもう一度栗毛色の頭に手を回せば、さっきまで膨れていた部分はすっかり無くなっていた。
「治ってるでしょ?」
「あぁ。」
解毒をしてもらった時以来に見るコノハの力。
あの時は意識が無かったので、こうして目の前で見ると本当に不思議だ。
「まるで魔法だな。」
魔法なんてモノは信じちゃいないが、これ以外に合う言葉が見つからない。
「魔法…」
コノハが自分の手を見て小さく呟く。
魔法なんて大層なものではない気もするが、ローに言われると不思議とそんな風に思えてしまう。
手から上へ目線を上げれば、大きな手が頬を包んだ。