第12章 まるで魔法だな
いつしか扉に伸びていた腕は下ろされ、ただ風呂場の前に立ち尽くしていた。
盗み聞きみたいな事をしているようで気分は良くない。
自身のおかしな行動に溜息が出そうになるが、グッと堪える。
ここで自分の存在がバレてしまえばコノハの答えは聞き逃してしまうだろう。
これはどう考えても盗み聞きなのだが、もうそんな事はローにとってどうでもいいのだ。
「ん〜、優しいところかな。」
ローの瞳が揺れる。
何度か言われているものの、やはり心当たりは無い。
だが、不思議と悪い気はしない。
「あとしっかり自分を持ってて、いつも自信に満ち溢れてるところ!」
明るい声が風呂場に響く。
「フッ…。」
目尻を下げた彼女を想像し、ふと頬が緩む。
今すぐコノハを抱き締めたい。
居ても立っても居られなくなり、再び手が扉に伸びる。
ゆっくりと扉を開ければ、4人が一斉にこちらを見た。
アホ面をかましたクルー共はさておき、なぜコノハがつなぎ服を着ているのだろうか。
眉間に皺を寄せると、コノハが小走りでこちらへ近付いてくる。
「ロー!お腹空いちゃった?」
どうしてそうなるのだろうか。
予想外の言葉に肩透かしを喰らい、肩の力が随分と抜ける。
「いや…そういうワケじゃねェが…その服は一体どうした。」
「3人からのクリスマスプレゼント…なんだけど、貰ってもいい?」
シャチやペンギンと同じ服を着たコノハがこちらを見上げる。
上まで上げられたファスナーに、きっちり折られた袖と裾。
寝る時はズボンを履かないってのに、なんだってこういうのはしっかり着るのだろうか。
「あぁ、構わねェ。」
それにしてもコノハのつなぎ服姿は新鮮だ。
久しく見る髪を纏めた姿に、自然と手が後頭部へ伸びる。
「ありが…あっまって!」
コノハが言葉を発したのと同時に手のひらに何かが触れた。
痛々しく盛り上がる部分を撫でれば小さな肩が揺れる。
「このコブはなんだ。」
バツが悪そうな顔をしたコノハの目線が右に左に泳ぐ。
自分に心配をかけないように言いたくないのだろう。
だが、隠されるのは御免だ。
「俺に隠し事をするつもりか。」
こう言えば素直な彼女は口を割る。
下唇を噛んだコノハは再びローを見上げた。