第12章 まるで魔法だな
翌朝、コノハは共有の風呂場であるモノと対峙していた。
(うーむ…)
それは水に浮かぶ大量のクマの毛。
毛という毛が排水溝を詰まらせ、行き場を失くした毛と水が風呂場の床に溢れ返っている。
(ちゃんと掃除しておけば良かった…)
サンカク島に上陸してからは、特に船内の掃除をする必要はないだろうと思っていた。
なぜなら、拠点がほとんど島になるから。
そして本来ならば、出航日である昨日掃除をするつもりだった。
だけども昨日はそんな余裕は無くて…
「よしっ。」
後悔しても今更遅い。
いつからこんなに毛が詰まっていたのかとか、よく3人もこんな状態でお風呂に入れたなとか、色々な事が頭を巡るけど今は一旦保留だ。
気持ちを切り替えたコノハは、軋む腰を下ろし排水溝の蓋に手を伸ばす。
蓋を開けてみれば、全ての原因がそこにあった。
丸まったベポの毛が栓となり、水の行く手を阻んでいるのだ。
もちろんそれは分かりきっていたこと。
けれども誰がこんな大きな毛玉を想像していただろうか。
自分の拳の大きさとさほど変わらない毛玉を摘み、思い切り引き抜く。
あともう少しで抜ける。
そう思った時、いきなり視界が反転した。
ゴンッ
鈍い音が風呂場に響く。
全体重を拳に乗せたことで、毛玉が抜けた反動で体が後ろに勢いよく倒れた。
「っ痛〜…!」
受け身の取り方など知りもしないコノハは、風呂場の床に仰向けになる。
聞こえるのは栓が抜けた排水溝から勢いよく水が抜ける音。
それを聞きながら天井を眺めていると、風呂場の扉が音を立てて開かれた。
「コノハッ!!?」
恐らく転んだ音で慌てて駆けつけてくれたのだろう。
ベポとシャチとペンギンは心配そうにこちらを見ている。
「ごめん、起こしてもらってもいい…?」
困ったように笑えば3人が体を起こしてくれた。