第2章 そうやって、笑うんですね
今日一日の出来事なのに、なんだかとても長い一日だった。
大切な物を奪われて、それを取り返しに行った。
もうこの世にはいない家族と自分を繋ぐ唯一の形見。
それを売ると言われてカっとなり、あろうことか男の人の腕に噛み付いてしまった。
力で勝てるはずもないから、仕方のないことと言えばそうだけど、あれはさすがにやりすぎたなと反省。
最初見た時は、目つきも悪いし口も悪いし、変な能力を使うし、ただただ怖い人なのかもと思った。
だけど村の人たちに宝を返すと言ってくれたことや、足腰立たなくなった私を家まで運んでくれた事、当たり前かのように食器を一緒に片付けてくれた事がなんだか嬉しくて、どこかで彼の優しさを感じた。
ひげじい以外に自分の手の力の事を話すつもりはなかったし、ましてや相手は海賊。自分の力を悪用されるかもしれないと思いながらも、同じ年齢という事もあり自然と話していた。
話してる途中何度か顔を見ると、最初に感じた印象とはかけ離れた優しい目をした彼の姿。
私が泣きそうになると自分の拳を握り締めて、辛そうな目をする彼。その目を見てまた泣きそうになった。
話し終えるといつのまにか自分が敬語を使っていない事に気付く。彼も特に気にしていないようだったけど、せっかく名前で呼んでもらったのにまたお前って言われた事に少しムッとして、名前で呼んでと言ったら、ちゃんと名前を呼んでくれて嬉しくなった自分。
謝罪の言葉を言うのが恥ずかしいのか、背を向けて言われたけど、きっと優しい目をして言ってくれたんだなと思うと心が温かくなって今でも温かい。
「ん〜、明日はどんな一日になるかな〜。休みだし、ローさんに会いに行ってみよう。」
ローがいなくなり自分一人だけになった家でぽつりと呟くと、シンと静まり返る部屋がなんだか寂しくなり、布団をかけ直し眠りにつくのだった。