第2章 そうやって、笑うんですね
コノハの家を後にし、自室に戻ってきたローは今日のあった事を振り返っていた。
ムカつく野郎から宝を奪っている間、なんとなく気付いていた気配。特に危害を加えるわけでも無さそうなので放っておいたが、このままにするのも後々面倒になったら困るので、隠れているつもりだろう草陰へ足を運んだ。
中々草陰から出ないことにイライラしながらも、待っていると勢いよく身を出してきた女。
自分よりも40cm程は小さいだろうか、小さな体の女は驚いた様子でこちらを見上げる。
目に映るのは陶器のような白い肌。艶のある栗毛色の長い髪。ぱっちりとした大きな目は恐怖からか少し揺れていた。
理由も分からず目が離せないままでいると、その人物は何故かもう一度草陰に隠れようとするので、反射的に腕を掴んでしまった。
何故こんなにも目を奪われるのかと不思議に思うも、今まで感じたことのないその感情をなんて呼ぶのか自分には分かるはずもなく、ただ、自分の気持ちを逸らす為にあり得もしない宝の横取りを心配するかのように発した言葉。
なんとなく自分の感情を否定したくて、つい睨んだように女を見てしまう。女は泣きながらも交渉してきた。震えた体で泣かれると、どうしていいか分からずとりあえず自分に着いてくるよう口を開いた。
自分でもなんでかは分からないが、つい困った顔を見たくなり大して興味もないネックレスを高く売れそうだと呟いた。
その後、腕を噛まれた時は何が起きたのか一瞬分からなかった。
度胸のある女だと関心しつつも、噛まれた現実に苛つき女を見ると先ほどとは違う顔つきで、真っ直ぐとこちらを見ていた。
出会ってから初めて見せられた表情。そんな顔ができるのかと素直に思った自分がいた。
男が家にいるというのが非現実的なのか、完全に無防備な女。
さっきまで震えながら泣いていたというのに、目尻が下がるほど笑ったり、驚いてすっ転んだり。短時間で表情がこんなにもコロコロ変わるヤツを俺は見たことがなかった。
自分の過去の話、秘密の話を海賊である自分に話す女。時折見せる悲しそうな顔を見ると心が痛んだような気がした。
振り返りたい事が山ほどあったが、心なしかいつもよりも体が温かくてよく眠れそうだったので、そのまま眠りについた。