第2章 そうやって、笑うんですね
「……コノハは、愛する人いるのか。」
自然と放ったその一言。
いとも容易く口から出たその言葉に、ローは自分でも驚いた。
コノハも突拍子もない質問に少し驚いたのか、一度目を丸くするとすぐに目尻を下げた。
「愛する人か〜。ひげじいはちょっと違うもんね、家族みたいなもんだし。もちろんお父さんとお母さんの事は愛しているよ?だけど、ローさんが聞く愛する人が、恋とか愛とかそういう意味なら、今はいないかな〜。今も昔もだけどね!島にいる以上はこの先も愛する人現れなそう!」
困ったように笑うコノハの言葉に、胸を撫で下ろすロー。
(………何をホッとしている?俺はコイツが気になっているのか?ありえねェ。今日会ったばかりでまだコイツをよく知らないんだぞ…。確かに優しい。だが、それしか知らねェ。…見た目だってガキだ。)
船での長い生活で色々な不満が溜まってるに違いない。
誰かに聞かれている訳でもないのに、勝手に自分自身にそう言い聞かせるロー。
このままこの場にいると、いつもの自分ではないみたいで、何故か疲れる。
コノハの表情や行動一つ一つがローの心の中を掻き乱すのだ。
早いとこ船に戻ろうと思い立ち上がり、一番気になっていた事を聞こうと口を開くロー。
「………そういやお前、人をその力で助けたことあるのか?」
頭にハテナを浮かべている彼女は、質問の意味を理解したのか立ち上がって自分を見上げる。
「ないよ。お母さんが言っていたように、自分に愛する人が出来た時にこの力の意味が分かるなら、この力は愛する人に使いたいと思っているの。…あと、なんで急にまたお前って言うの!ちゃんと名前で呼んでよ!」
頬を膨らませるコノハの言葉に安堵したのか、目を細めるロー。
「…なるほどな。俺は船に戻ることにする。」
「えー!泊まっていかないの!?」
その言葉に顔を顰めたローは、玄関に手を掛ける。
彼は、コノハが男を泊まらせようと思ってる事の方が驚きのようだ。
「お前の大切な物を軽い気持ちで売るなんて言った事と、辛い事を思い出させちまって悪かった。それと、メシ…ありがとな。」
帽子を被り直したローは、背を向けたままコノハにそう言うと扉を開け外へ出ていく。
その姿に心が温かくなったコノハは自然と顔が綻んだ。