第12章 まるで魔法だな
ポーラータング号の1番奥に位置する船長室で、いよいよ2人のお楽しみが始まろうとしている。
「じゃあ、はい。どうぞ。」
クルー達に渡したよりも小さめな紙袋。
「あぁ。」
ローはそれを受け取ると、自分も同じように紙袋を差し出した。
(喜んでくれるかな…。)
プレゼントを渡すのをあれだけ楽しみにしていたというのに、土壇場になって妙な緊張感が襲ってきた。
初めての好きな人とのプレゼント交換。
ひげじいには申し訳ないが、緊張感がまるで違う。
早まる心臓の音を抑えるように生唾を飲み込むと、それを見ていたローが眉間に皺を寄せた。
「…見ねェのか。」
低い声に小さな体が跳ねる。
否定の意を込めて首を振り、紙袋の中からプレゼントを出すと、それを見ていたローも後を追うように紙袋の中から箱を出した。
「…!?」
互いの手に持つ物を交互に見るコノハ。
ローも何か言いたげな様子だが、まずは中身が気になる。
何も言葉を発する事なく、2人は同じタイミングで箱を開ける。
「っ…!う、そ…。」
「ククッ、こんな事があるのか。」
ローは意外にも笑っているが、予想外な展開にコノハは驚きが隠せない。
それもそのはず。
コノハがローにプレゼントしたのは、太めのゴールドのリングピアス。
そしてローが彼女にプレゼントしたのは、細めではあるが全く同じ形状のピアス。
2人は互いへのプレゼントにピアスをチョイスしたのだ。
「ってことはローもあそこのお店で?」
「そうだ。」
なんたる偶然。
物だけにとどまらず、店まで同じだったとは。
紙袋から出した時見覚えのある箱にまさかとは思ったが…
「ふふっ、凄いね。ひげじいと毎年やってても被ったことなんか一度も無かったのに。」
「フッ、ジジイと被るのなんて本ぐらいだろ。」
朝に一悶着があった事などすっかり忘れている2人は、仲睦まじく笑顔を交わす。
2人にとって初めてのプレゼント交換は、物が被るというなんとも面白い思い出となった。