第11章 触らないで
偶然にも5人の目の前に現れ、自分と愛し合っていたとデタラメな事を言うイヴにローは内心焦っていた。
一年ほど前、宿敵ドフラミンゴの情報が少しでも欲しかったローは、情報と引き換えに確かに彼女と体を重ねていた。
だが、気持ちなど全く無かった。
全てはコラさんの仇を討つため。
それでもコノハがその言葉を気にしないハズがない。
揺れる瞳が全てを物語っていた。
今すぐにでも抱き締めてやりたい。
そうしたいのは山々だが、今はやるべき事がある。
「シャボンディ諸島にいる世界一の情報屋を知ってるか。」
さっきから腕に絡まるイヴを払いのけるとローが口を開く。
イヴはその言葉になぜか目を見開いた。
何か言いたげなイヴだが、ローにはそんなこと関係ない。
「オイ、どうなんだ。」
自分の問いに返答をしないイヴにイライラした様子でローが畳み掛ける。
「どっからその情報を掴んできたのかは知らないけど…知ってるわ。」
しばらく黙っていたイヴがようやく口を開いた。
こうなればあとは場所を聞くだけ。
手間は少しでも省いておきたい。
「これはその人のビブルカードよ。」
そんなローの思いが伝わったのか、イヴはローに小さな紙の切れ端を渡す。
「なんでお前が持っている。」
新世界にしか存在しないといわれているビブルカード。
何故こんなものを持っているのか。
日々、様々な情報を集めているローは初めて見るそれに眉間に皺を寄せた。
「シャボンディ諸島にいる世界一の情報屋は私のママよ。」
その言葉にローの目が丸くなる。
嘘は言っていないようだが、そんな事があり得るのか。
固まるローにイヴがふらりと近付く。
そして力ずくで大きな体を引き寄せると、おもむろに己の唇をローの唇へ押し付けた。
「ッ…!」
一瞬ローの中で時が止まる。
だが、瞳に映った小さな人影に意識が引き戻された。
「何しやがる…!」
強い力でイヴを押せば、彼女はわざとらしくよろめく。
「あら、今までだって情報と引き換えにこういう事してきたでしょう?」
キツい香水を纏わせたイヴがローの腕に再び絡まる。
「俺はもうお前を抱く気はねェ。必要なら金を払う。」
地を這うような低い声にイヴは顔を強張らせた。
「…離せ。」
短く言ったローはイヴの手を振り解き、石鹸の匂いが微かに残る道を駆けて行った。