第2章 そうやって、笑うんですね
「ネックレスはね、お母さんが連れて行かれる時に私にくれたの。このネックレスは特別な力も宿してないし、ただのネックレスだけど、お父さんから貰った大切なネックレスなんだって。
だから形見なの。それと、お母さんは”いつかあなたに愛する人ができた時、その力の意味が分かる”って言ってたんだ。」
目に涙を浮かべながらも、少しスッキリした顔でこちらを見るコノハ。
自分は一体どんな顔をしているんだろうか。
不思議そうに自分を見るコノハは、あっと何かを思い出したかのように続けて話す。
「さっきローさんに噛んでしまったのは、私の形見を売るとかなんとか言ってたから。…気付いたら噛んでたんだけど、何も噛むことはなかったよね。」
何してんだろうと呟きながら笑うコノハに、ローの顔は曇ったまま。
「ずっと…ね。ずっと、お母さんはきっとどこかで生きているって、そう心の中で信じていたの。でも連れて行かれて1年ぐらい経った時かな、いつも行く森の中でネコが倒れていてね。呼吸も荒くて、今にも死んでしまいそうで…ネコの手を握りながらお願い死なないで、頑張って生きてって願ったら、みるみるうちにネコが元気になったの。」
これ以上の事を聞くのは、彼女の傷口を広げるだけだろう。
「じゃあコノハの母親は、その時に…。」
そんなローの気持ちとは裏腹に自然と出てしまった言葉。
その言葉に大きな瞳が一瞬揺れる。
「悪ィ。」
その言葉に首を横に振るとふわりと笑うコノハ。
「お母さんが連れて行かれてから、安否を確かめる為に毎日枯れそうな植物にネコと同じようにしてたの。…でも、力がその時継承されたって事は、お母さんはその時亡くなったって事だね。」
自分と同じく家族を失ったコノハ。
心が引き裂かれる思いで話してくれたんだろう。
その目にはまた涙を浮かべていた。
「ローさん、私の話を聞いてくれてありがとう。なんでかは分からないけど、…ローさんなら、この話をしても平気かなって思ったの。」
目の前で父親が殺され、海のどこにいるかも分からない母親に想いを馳せ、ずっと信じてきたというのにあまりにも酷い結末に怒りがこみ上げる。
鈍い音が今にも聞こえそうなほど、己の拳を強く握り締めているローと、それを見るコノハ。
2人の間にはしばらく沈黙が流れた。