第11章 触らないで
朝、コノハの自室。
重たい瞼を開け体を反対側に返せば、頭に鈍痛が走る。
「痛い…。」
その痛みは昨日の記憶を呼び覚ます。
しばらく放心していたいが、朝ご飯を作らなくてはいけない。
ベッドから足を出すとそのまま戸棚に足を向ける。
「そういえばここで寝たの初めてだ…。」
自分の部屋を持ってからというものの、毎日欠かさずローと同じベッドで寝ていたコノハ。
その前ですら、寝る場所は違えど同じ部屋で一緒に寝ていた。
昨日は泣きすぎによる疲れからか落ちるように眠ってしまったが、それが無ければ自分は1人で眠れるのだろうか。
滲んだ視界を擦りながら自分が調合した薬へと手を伸ばす。
瓶の蓋を開けようとした時、足元で紙の擦れる音がした。
目線を落とせば床に転がるのはローへのプレゼントが入った紙袋。
「あ、今日クリスマス…。」
忘れていたがそういえばそうだった。
だけど…
昨日の今日で渡せるわけがない。
結局何も知らずに自分は舞い上がっていた。
自嘲気味に笑いながら落ちた紙袋を手に取るコノハ。
あの人に貰うプレゼントの方が嬉しいに決まっているハズだ。
もう自分は身を引くしかない。
そう思ったコノハはローへの気持ちに蓋をするように紙袋を同じ場所へとしまった。
「さて、ご飯作らないと。」
今後の事など色々考えたいところだが、与えられている仕事はキッチリこなしたい。
いい奴だった。
自分が船を降りた後、少しでもそう思ってもらえるように。
気持ちを切り替えるように自分の頬を叩くと、その足は扉の方へと向かう。
今は何も考えずやるべきことをやろう。
小さく頷いたコノハは扉を開ける。
「っ…!」
目に飛び込んできた光景に大きな瞳が揺れた。
揺れる瞳が捉えるのは、鬼哭を抱えながら部屋の前に座るローの姿。
「…ッ、ロー…。」
会いたくなかったと言えば嘘になる。
だけど今は顔を合わせたくない。
そんな思いから顔が自然と下を向いた。
ローはため息を一つ吐き、ゆっくりと立ち上がる。
「…来い。」
その言葉と共に大きな手がコノハの腕を掴んだ。