第11章 触らないで
賑わう酒場とは対照的に、彼らが座るテーブルには重い空気が漂う。
ローを追いかけもせず、何も言わないコノハにクルー達は声をかけることもできない。
「さっ!3人とも飲むよ!」
そんな3人を差し置いてテーブルには大きな声が響く。
クルー達が声の方を見れば目の前には笑顔のコノハ。
女とローが外へ出てからしばらく俯いていた彼女は、いつのまにか顔を上げていた。
もう手は震えていない。
ちゃんと笑えてる。大丈夫。
それなのに目の前の3人は暗い表情で自分を見ている。
「3人とも女の子の誘いを断るの?」
こう言えば乗らないことはないだろう。
数ヶ月しか一緒にいないが、3人のことは少しは分かっているつもり。
だが、彼らの方が一枚上手だ。
実際は彼らの方がコノハをよく分かっている。
さっきから下手な笑顔を貼り付けたコノハに、眉を顰めるベポは席を立つ。
ローが座っていた席に腰を降ろすと震える小さな手を優しく握った。
「キャプテンはコノハが1番だから。ボクには分かるよ。」
ベポの言葉に大きな瞳が揺れる。
「ベポ…」
見透かされている。
強がりを諦めたコノハは気の抜けた顔で微笑んだ。
「オレらもあの人の名前はさっき初めて知ったんだ。2年くらい前だったか、行く先々の島で2人が会っていたのは何度も見た事があるけどよ、それもここ1年で見なくなったなァ。」
「シャチ、そこまで言わなくても!」
「コノハだって気になってたハズだ。それにどうせキャプテンが後から話すだろ。」
2人なりの優しさに目の奥が熱くなる。
いっそこのまま泣いてしまおうか。
コノハがそう思った時、ずっと黙っていたペンギンが口を開いた。
「俺らは昔から一緒にいるけど、ここまで女にゾッコンなキャプテンは見た事ねぇよ。それにキャプテンはコノハ以外の女を船に乗せた事なんか一度もねぇぞ!」
心配するなと親指を立てるペンギンに、またも目の奥が熱くなる。
でも、ここで泣いたらせっかくの楽しい時間が台無しだ。
ベポ、シャチ、ペンギン。
3人の目をしっかり見たコノハは頭を下げる。
「みんなありがとう。」
絞り出した声はちゃんと聞こえただろうか。
恐る恐る顔を上げれば、大きな瞳には3人の笑顔が映った。