第10章 そういうところも好きだよ
デッキに座る2人の頬を潮風が撫でる。
コノハを落ち着かせようとここへ連れてきたローは、小さな手に己の指を絡ませた。
「大丈夫か。」
さっきまで体を見て笑っていたローとは打って変わって、その言葉は優しくコノハに降りかかる。
「うん。もうちょっとこうしていたい…。」
普段とは正反対の弱気なコノハは、隣に座るローに頭を預ける。
「どんな夢を見たのかは思い出せないんだけど、苦しかったのは覚えているの。」
うなされる声で目を覚ましたローは、コノハの様子をしばらく見ていた。
額に大量の汗をかき、呼吸が乱れだしたところで居ても立っても居られなくなり、彼女の名前を呼んだのだ。
側から見ても苦しそうにしていたのは一目瞭然。
本人なら尚更苦しかっただろう。
「この前も変な夢を見たと言っていたが…手の力の事と関係あるんじゃねェか。」
「そうかなあ。」
ローの言葉にコノハはいまいちピンと来ていないようで、小さな声で返事をした。
そう言われればそうかもしれないし、違うかもしれない。
夢の内容さえ思い出せればこんなにモヤモヤしなくて済むのに。
「その力について早く情報を集めてやりてェところだが、政府に狙われている以上は安易に情報を集められねェ。」
そう言うとローは小さな手を強く握る。
「悪ィ。」
ぽつりと放った一言にコノハの瞳が揺れた。
「ローが謝ることじゃないでしょう?お願いだから、謝らないで…。」
自然と顔を見上げれば、大きな瞳には眉を顰めたローの顔が映る。
いつでも自分を一番に考えてくれているローに、コノハは感謝の気持ちしかないのだ。
言葉で伝えるよりも分かるだろう。
そう思ったコノハはローの体を抱き締める。
嗅ぎ慣れた石鹸の匂いが自分を包むと、ローは小さな背中に腕を回した。
「ローは本当に優しいね。」
こんな自分を優しいと言う彼女に、ローは耳を赤く染める。
そんなローから体を離すと優しい瞳でコノハが微笑んだ。
「そういうところも好きだよ。」
その言葉に胸の鼓動が早くなる。
コノハを落ち着かせるためにここへ来たというのに、今じゃローが落ち着かないようだ。
火照る顔を隠すように小さな体を腕の中に閉じ込めた。