第10章 そういうところも好きだよ
「結構深くいったんじゃねえか?」
「多分な。この前オレに塗ってくれた薬はあるか?」
心配そうに自分を見るペンギンとシャチにコノハは目尻を下げる。
「2人ともありがとう。でもこんな傷大したことないから、薬は塗らなくても大丈夫!」
傷口を圧迫するコノハに、2人は顔の前に両手を合わせる。
「「お願いだから塗ってくれ!」」
自分達が側にいながらコノハが怪我をしたなんてローにバレれば、怒られるどころでは済まないだろう。
噛み跡を付けておきなからなんだかんだでコノハを大切に扱うローは、彼女が怪我をしたと分かれば鬼のような形相で2人に詰め寄るに違いない。
それはコノハも分かっていることだ。
自分の事で2人が怒られる姿など見たくない。
「分かったよ。」
とは言ったものの、わざわざ自分の為だけに薬を取りに行くのも面倒だ。
それに少しでも長く釣りをしたい。
なら手っ取り早い方法でいこう。
眉尻を下げたコノハはゆっくりと目を閉じる。
柔らかい風が吹き、シャチとペンギンの鼻腔に石鹸の匂いが届くと目を開けるコノハ。
「すげェ!ホントに傷が治ってるぞ!」
圧迫していた指を離すと、さっきまでの傷口が嘘のように無くなっている。
コノハの力を初めて目の当たりにした2人は目を輝かせた。
「これでキャプテンに怒られずに済む…。」
そして胸を撫で下ろすのである。
安堵した表情を浮かべるシャチとペンギンに小指を差し出すと歯を剥き出して笑うコノハ。
「じゃあ、この事は3人だけの秘密ね?ローには内緒!」
「おーし、絶対な!」
「墓場まで持って行くぜ!」
顔を近付けた3人が小指に力を入れれば、秘め事の誕生だ。
自分の力を怖がることなく、至って普通に接してくれるシャチとペンギン。
2人の優しさに少し未来が明るくなった気がした。
それでも忘れてはいけない。
世界にはその力を求めている者達がいるということを。
そう遠くない未来、コノハはそれを知ることになる。