第9章 あんな所で満足してんじゃねェ
その日の夜。
コノハはローの部屋にいた。
セントポプラで買った本を真剣な眼差しで読んでいるコノハ。
部屋には、ローがシャワーを浴びている音と本を捲る音だけが響いている。
本を捲りながらも、しきりに時計に目をやる。
ローが風呂に入ってから5分が経っている。
いつも15分ほど風呂に入っているのを計算すると、ローはあと10分風呂から出てこない。
「何これ…全然分かんない…。」
コノハには見慣れない単語ばかりが並ぶ本。
どうやら彼女にこの本は難しいようだ。
「もう今日はやめておこう。頭が痛くなる…。」
開始5分で本を閉じたコノハは、ベッドボードに背を預け天井を見上げる。
生きていた中でこんなに難しい内容の本を読んだことがあっただろうか。
いや、間違いなくないだろう。
なぜならこの本は、今までのコノハには必要無い知識ばかりが載っている本だからだ。
理解できない本の内容にただ天井を見ていると、いつのまにか時間が経ったようでシャワーの音が止まった。
その音に勢いよくベッドから出たコノハは、手に持つ本をどこに隠そうかと部屋を見回す。
今から部屋に戻ったら、風呂から出てきたローに怪しまれるだろう。
かと言ってローの部屋の本棚には迂闊に置けない。
ローにこの本の存在を知られたくないコノハは、血眼になって隠せそうな場所を探す。
体を拭く音に焦りを感じていると、目に飛び込んできたのはローのデスクの引き出し。
ひとまずここならバレないだろう。
幸いローはあまり引き出しをいじらない。
急いで引き出しを開け本を押し込むようにしまうと、ちょうどローが風呂から出てくる。
「お、おかえり!」
焦った様子のコノハに、無造作に髪を拭くローが近付く。
「…あぁ。お前も入ってこい。」
固まるコノハの頭を撫でると、そのままソファーへと向かうロー。
ローの反応からすると、どうやらバレていないようだ。
「あ、うん!行ってきます!」
胸を撫で下ろしたコノハはそう返すと、パタパタと風呂場へ向かって行った。