第9章 あんな所で満足してんじゃねェ
「これから風呂はここを使え。」
自室に入り奥の扉を開けると振り返るロー。
「うわあ…、すごい。」
目に飛び込んできたのはバスルーム。
いつも入っている風呂よりは狭いものの、コノハが住んでいた家の風呂よりは随分と広い。
綺麗で広いバスルームに目を輝かせていたコノハは、何かを思い出したかのようにローを見上げる。
「あれ、前からローの部屋にお風呂なんてあったっけ?」
部屋の奥に、前から簡易的な洗面所があったのは知っている。
ローがここで髭を整えるのも見たことがあるし、自分だって朝ここで身支度をしている。
でもそもそもここに扉なんてあっただろうか。
「いや、ウォーターセブンでここも作らせた。…毎晩お前は一番最後に風呂に入ってるからな。アイツらの汚ェ垢まみれの風呂なんか浸かりたくねェだろ。」
ローは知っているのだ。
風呂の掃除をそのまましたいコノハが、一番最後に風呂に入ることを。
そして、ぬるくなったお湯に浸かっていることも。
少しでも暖かいお湯に浸かってほしい。
それを言うのが照れ臭いローは、口を開けたまま閉じようとしないコノハを見下ろすと口元を吊り上げる。
「それに、ここなら2人で存分に風呂に入れる。」
「なっ…!?」
ローの言葉に顔を赤くするコノハ。
その意地悪な顔に、夜のローの姿を思い出してしまう。
「ちゃ、ちゃんと1人でお風呂入れるから!」
鳴り止まない心臓を聞かれないように、ローから少し離れた位置に移動すると、長い腕がコノハを捕まえる。
「逃げるんじゃねェ。」
クツクツと笑うローは、コノハの後頭部を押さえ込むとそのまま唇を重ねる。
「んっ!?」
突然のキスに目を見開いていると、長い指が耳朶に触れる。
「ろっ、ちょっ…。」
自分の名前を呼ぼうと口を開いたコノハの口内に、素早く舌を割り入れそのまま口蓋を舐めとる。
「ふぁッ、んん、ろぉッ…。」
切なく漏れるコノハの声に、ローの心は震える。
グーギュル、ギュル…
何度も聞いたことのある音に、つい顔を離すと蕩けた顔で笑うコノハ。
「ハァッ…、ごめん。お腹空いちゃった。」
己の食欲に勝てないコノハは肩を上下させながらローに謝る。
不完全燃焼なローは呆れたようにため息を吐いた。