第9章 あんな所で満足してんじゃねェ
久しぶりの船との再会。
そして、新しく出来た自分の部屋。
許されることならば1日ずっと喜んでいたいコノハは、その気持ちを抑えて朝から船内の掃除やら洗濯に追われていた。
「ふぅっ…。」
2週間分のクルーの洗濯物をやっと干し終えると、キッチンへ向かうコノハ。
手際よく昼食を作り、最後に味見をする。
「うん、美味しい。」
4人が美味しそうに食べる姿を想像し、顔を綻ばせたコノハは壁に掛かる時計へと目を向ける。
お昼ご飯まであと一時間。
今ならまだ間に合う。
急ぎ足でデッキへと向かうと、そこには洗濯物を干していた時から変わらない体勢で眠るベポの姿。
腰を下ろし、吸い込まれるようにベポの腹に頭を預けたコノハは、ゆっくりと目を閉じた。
大好きな消毒液の匂いが鼻腔に届き、自然と目を覚ますとそこには派手なタトゥーが入った手で本を読む人影が目に入る。
「ロー?」
その言葉に本を閉じたローは、自分の足の上に乗せたコノハの頭を無言で撫でる。
まだ自分の置かれた状況に気付いていない彼女は、霞む視界を戻そうと目をこする。
「あれ、ベポは?…それと、なんでローがここに?」
まだ少し眠たそうな目をしたコノハは、ローを見上げる。
「アイツならペンギン達と昼飯を食ってる。」
その言葉にコノハの意識が覚醒していく。
昼の時間になっても食堂に来ない自分を心配して、探しに来てくれたローがベポと代わってくれたということか。
それにしてもこの状況は、嬉しいような恥ずかしいような…。
膝枕をされていることに気持ちが入り乱れるコノハは少し頬を赤らめる。
幸いクルー達は昼食中だ。
なら少しこのままでいよう。
「ロー、あの…、私を島から出してくれてありがとう。」
突然のコノハの言葉に一瞬目を見開いたローは、彼女の頭を再び撫でる。
「なんだ急に。」
置かれた手を手繰り寄せるとそのままローの手を握るコノハ。
「ホッ島を出るまでは、他の島がこんなにも素敵だなんて知らなかったから…。セントポプラ、本当に綺麗な街だったね。」
確かに毎日部屋の窓から街並みを眺めていたコノハ。
街へ出れば嬉しそうに辺りを見回していた。
嬉しそうに話すコノハは世界を知らないのだ。