第9章 あんな所で満足してんじゃねェ
あれから2時間が経ち、酒場を後にした5人は泊まっている宿へと向かっていた。
「私の腕がもっと長ければローに勝ってたのに!」
頬を膨らませたコノハが悔しそうにローの隣を歩く。
2人の対決は、その場にいた全員が釘付けになるほど凄まじいものだった。
水のようにビールを流し込む2人は、とうとう店にある樽全てを空にした。
これが最後と運ばれたビールを取り合うように飲んでいると、遂に最後の一杯となってしまい、コノハの短い腕は惜しくもジョッキに届かず、容赦の無いローによって勝敗は決まってしまったのだ。
「クク…。そういうのを負け惜しみと言うんだ。」
あれだけ飲んだと言うのに顔色一つ変えないローは、彼女との勝負に満足したのか機嫌が良さそうだ。
「負け惜しみなんかじゃないもん!ねぇロー、酒場に行ったらまた勝負してくれない?」
負けず嫌いなコノハは自分が勝つまでローに挑み続けるだろう。
ローと同様、大して酔っ払いもせず楽しそうに話すコノハに頭の上がらないシャチが口を開いた。
「あぁ〜!もうコノハには挑まねェ!もうこりごりだ。」
「ボクも絶対やめとく!」 「俺も。」
コノハの男顔負けの飲みっぷりには2人もお手上げのようだ。
そんな3人の言葉に声を出して笑うコノハの隣では、ローが弱気なクルー達にため息を吐いた。
宿の玄関前でベポ達と解散したローは、酒場に行きたがるコノハをなんとか言いくるめ部屋に連れ帰った。
まだまだ飲み足りないと剝れるその人物は、窓から身を乗り出し夜風を浴びている。
「そんなに身を乗り出すな。危ねェぞ。」
ローの長い腕が小さな体を包む。
「ふふっ、どうしたの?」
後ろから抱きしめられたコノハは後ろを振り向き、一度驚いた顔をした後すぐに目尻を下げた。
優しく笑うコノハの顎を掴むと、自分の唇を重ねるロー。
「んっ…。」
触れるだけの優しいキスに小さな体がピクリと跳ねた。
ゆっくりと顔を離すと、目の前には潤んだ瞳で自分を見上げるコノハ。
その姿に、ローの独占欲はむくむくと膨れ上がる。
「さっき煽った仕返しをさせてもらうぞ。」
問答無用に抱き上げられたコノハの顔は、酒を飲んだ時よりも赤く染まっていた。