第9章 あんな所で満足してんじゃねェ
小さなレストランでコノハがローを揶揄いすぎた次の日の夜。
セントポプラの酒場では、ハートの海賊団が島を出る前の最後の宴を開いていた。
「シャチ、まだまだいくよ!」
シャチに飲み比べ対決を申し込まれたコノハの目の前には、空いたジョッキがずらりと並べられている。
「ちょッ!もうそんなに飲んでんのかよ!クソ、早ェよコノハ!」
自分と彼女の空いたジョッキに差が開いている事に気付いたシャチは顔を歪ませた。
そんな2人を見ているベポとペンギンは、開いた口が塞がらないようで、さっきから手に持つジョッキは中身が減らず少しぬるくなってしまっている。
ローはというと、怪訝な目つきで2人を見ていた。
コノハが食べることも飲むことも好きなのは知っている。
酒を飲んでもなかなか酔わないとベポが言っていたのも、記憶に新しい。
ただ、こんなに大量の酒を飲んでるコノハを見た事がないローは、内心驚いていた。
「おじさーん!私と彼にビールあと10個ずつ追加でお願いしまーす!」
酒を飲んだことで少し頬を赤くしたコノハが口元を拭いながら注文をすると、シャチの顔が青ざめる。
「ま、待て!このままだと倒れちまう!俺が!」
自分から対決を申し出たというのにストップをかけるシャチ。
そんな彼を見ながらイタズラな笑みを浮かべるコノハは、一瞬ローに視線を送ったあと再びシャチに視線を戻す。
「ふふっ。シャチ、自分から言っといてまさか降りる気?ローだったら絶対そんな事しないよ?」
いきなり引き合いに出された本人は、眉毛をピクリと動かすと隣に座る人物に目をやる。
「でしょ?」
ローの好きな笑顔を浮かべるコノハは、間違いなく彼を挑発している。
席を立ち、彼女の前に座るシャチの肩を掴むとローの口元が釣り上がる。
「シャチ、そこをどけ。売られた喧嘩は買わなきゃならねェ。」
言われたままにシャチがその場を立つと、慌てふためくベポとペンギン。
肩を揺すろうが声をかけようがローはピクリともしない。
コノハを捉えた瞳は鋭くギラつき、ローも楽しんでいるのだ。
見守ることしかできないクルー達は静かに席に座ると、それを合図にするかのように2人はジョッキを手に持った。