第9章 あんな所で満足してんじゃねェ
「それに…」
まだ何か言いたそうなコノハの言葉に、ローの眉間に寄った皺が深くなる。
「次はなんだ。」
まさか研究に使う材料以外にも金を使うのか。
コノハはローがそんなことを考えているとはつゆ知らず、楽しそうにローを見つめる。
「まだ1ヶ月以上先だけど、クリスマスがあるでしょ?だから、ローに何かプレゼントをって思って!」
「…クリスマス?」
丸くした目で聞き返すロー。
的外れな内容に、肩透かしを食らっていると慌ててコノハが口を開いた。
「え、あっ!クリスマスっていうのは2000年も前に生まれた人の事をお祝いするイベントでー
「おい、馬鹿にしてるのか。それぐらい分かる。俺が言ってるのはそれがなんだってことだ。」
日々本を読み漁っているローは知らないハズがない。
それなのに持ち前の天然で一から説明をしようとするコノハに、こめかみを揉むロー。
返ってきたローの言葉に、少し寂しい顔をしたコノハはローの皿の上に乗ったパンを見つめている。
「パンならやる。」
そう言うとローはコノハの前に皿を移動させる。
すると今度は、パンを嬉しそうに見つめるコノハ。
その表情に、ローの頬が緩んだ。
「フッ…。落ち込んでると思いきや、食欲は抑えられねェんだな。」
「ち、違う!ローがパン嫌いだから、食べてあげようかなって思ってたの!」
そう言うコノハの手はしっかりパンに伸びている。
ローの言う通り、食欲を抑えることは彼女には難しいようだ。
頬を膨らませながらパンを握るコノハにローの気まぐれが発動する。
「さっきのクリスマスのことだが…。俺だけが貰うのは納得できねェ。俺も何か用意しておく。」
世間ではプレゼントを渡したり、食事をしたりと自分が生まれた日でもないのに祝うその習慣は、ローには無縁だ。
そもそも自分の生まれた日でさえ祝わないのだから。
それなのに、コノハがさっき放った言葉は確実にローの胸を躍らせた。