第9章 あんな所で満足してんじゃねェ
宿を出て、コノハの希望で薬屋に来た2人。
調合に必要な物を買ったコノハがカバンから数本の瓶を取り出すとカウンターに並べる。
「おじさん、これ私が調合した薬で…。買い取っていただけませんか?」
その言葉に店主は頷くと、目の前に置かれた瓶を手に取り、薬の効能を確かめだす。
匂いを嗅ぎ、瓶の中身を一滴専用の紙に垂らすと、白かった紙がじわじわと黄色くなっていく。
その光景に、目を細めて見ていた店主の目が一瞬にして大きく開いた。
「おぉっ…!こりゃ見事な調合だ。是非ともこの金額で買い取りたい。」
金額を書いた紙を見せられ、あまりにも高い金額に勢いよく顔を振るコノハ。
「こんな金額…!高すぎます!」
素直に受け取ればいいというのに、首を振り続けるコノハはどこまでも謙虚だ。
「お嬢ちゃんが調合したんだね?自信を持ちなさい!」
さあ受け取ってと金をカウンターに置かれると、店主に突き返すコノハ。
その一連を見ていたローが口を開いた。
「快く受け取っておけ。それはお前の努力の証だ。」
ローの大きな手で頭を撫でられたコノハは、渋々頷いた。
その後2人は遅めの昼食をとるために小さなレストランに来た。
暖かい陽気に包まれながらテラス席で食事をするローとコノハ。
「自分の調合した物をあんなに高く買い取ってくれるとは思わなかったな…。なんだかこんな大金もらってしまって申し訳ないや。」
フォークを持ったまま街を眺めたコノハがぽつりと呟く。
彼女の美しい横顔に目を奪われていたローは、彼女の自信の無さにため息を漏らす。
「ったく…。もっと自分の腕に自信を持て。それより、なんだって急に物を売るんだ。金のことなら心配するなと言ってるはずだが…。」
日用品から身の回りの物まで、コノハの物はなんでも買いたがるローは、彼女がお金を使うのを極度に嫌がる。
「そうなんだけど…。せめて研究の材料とかは自分で買いたいの。ね?いいでしょ?」
自分もなかなかの頑固者だが、コノハもそれに負けないほどの頑固者だ。
顔の前で両手を合わせ真っ直ぐな瞳で見られると、断ることなどできない。
「あぁ。それならいい。」
結局折れてしまったローは短く返事をした。