第9章 あんな所で満足してんじゃねェ
ポーラータング号をガレーラカンパニーに預けたハートの海賊団。
彼らは、海列車でウォーターセブンと結ばれている春の女王の町セントポプラに来ていた。
「ここでの生活もあと2日か〜。船見るの楽しみだね!」
窓から身を乗り出し、美しい街並みを眺めるコノハ。
石鹸の香りを乗せた暖かい風がローの鼻腔に届く。
「そうだな。」
アイスバーグとの商談で決まったのは、船の修理と部屋の増築。
そして全てが終わるのは2週間後だということ。
コノハを政府の人間から少しでも遠ざけたいローは、彼女を無理矢理抱いた次の日には全員を連れてここへ来ていた。
束の間の穏やかな時間が2人の間を流れる。
外を眺めていたコノハが洗面所へ向かうと、なにやら彼女はご機嫌なようで微かに鼻歌が聞こえる。
可愛らしいその音に誘われるように立つと、読んでいた本を机に置きコノハがいる洗面所へと足を運ぶ。
「ん?どうしたの?」
鏡越しに写るコノハは、珍しく髪を高い位置に纏めている。
「いや…、やけに機嫌がいいと思ってな。」
「うん!だって、ここ最近ローが首にキスマークつけないお陰で久しぶりに髪の毛結べるから!」
目尻を下げるコノハは嬉しそうに振り向くと、ローに抱きつく。
「…そうか。髪を纏めてるのも悪くねェ。」
束ねた髪を愛おしそうに掬うローの言葉に、耳まで赤くしたコノハは胸に顔を埋める。
鏡に映るコノハの頸には、ローが付けた赤い跡がいくつも付いている。
首元に噛みついた一件から、見えるところに噛み跡とキスマークを付けるなとお叱りを受けたロー。
彼女は知らない。
コノハが寝た後、ローがいくつも自分の頸に跡を残していることを。
怒られてもヘソを曲げられても構わない。
ただ彼女が自分の側にいてくれればいい。
自身が付けた跡をなぞるように頸を撫でると、ローの口元が吊り上がった。