第5章 しみずくん
なぜだかまた、涙が溢れてくる。人に心配されると余計に泣きたくなってしまうからだと思う。
泣いてた理由なんて言えるはずがない。ただ泣く私を見て清水くんは言った。
「僕、永宮さんがなんで泣いてるか知ってるよ」
「は?」
「当ててあげよっか」
また空気が冷たくなるのを感じた。全身が凍って動けなくなるみたいに。
耳元でそっと囁くように、弱みを握ってるみたいに言った。
____お兄ちゃんのことでしょ?
なんでわかるの。怖くなって、言葉が出てこない。
「やっぱりそうなんだ。ずっとおかしいなって思ってたんだよ。今まで辛かったね。もう大丈夫だから」
そう言って私の頭を撫でる。背中までさすってもらって。今は人の優しさが痛かった。
「清水くん………わたし、どうしたらいいかわかんない」
雅哉に対しての気持ちがよくわからない。さっきの二人を見た時だって、なぜだか嫉妬してる自分がいた。散々、離れないでとか甘い言葉を囁いてきたくせに。当の自分は他の女の子と遊んでる。それが嫌で仕方なかった。
「だいじょうぶ。僕がずっとそばに居てあげるから」
涙は止まりそうにない。ずっと誰かに聞いて欲しかった。たぶん、限界を迎えたんだと思う。だからこうして気持ちが全部溢れてしまった。
***
「もう暗いね。そろそろ帰る?送ってくよ」
「やだ…………帰りたくない」
「え?」
雅哉がいる家に今日ばかりは帰りたくなかった。友達の家に泊めてもらうにも今から頼むのは迷惑だから、どうしようもないけど。
「じゃあさ、……………今から僕の家来る?」
まさかの一言。こんな展開になるなんて1ミリたりとも思ってなかった。
「ほんとにいいの………?」
「いいよ。僕、一人暮らしだしここから近いんだ。どうせ明日は土曜日だし、お母さんたちには友達とお泊まり会するとでも言っておきな?」
家に帰らなくていいなら、なんでも良かった。このとき清水くんが神様に見えて、私はお言葉に甘えることにした。
「じゃあ、お家行っちゃおうかな………?」
「ふふっ、いいよ。じゃあ一緒に帰ろうか」