第5章 しみずくん
どうかしてる。離れないでって言われてから、変な期待が芽生えてしまった。もしかしたら、雅哉は私の事が好きなんじゃないかって。途端に私も雅哉のことで頭がいっぱいになる。
あんなに嫌だったのに。一緒に暮らそうって言われて絶望してたのに。少しだけ優越感と嬉しいって気持ちが雲隠れしてたのかもしれない。本当は気付きたくなかっただけで、とっくに溺れてたのかもしれないって。
なぜだかあの日以来、意地悪なことをしてこなくなった。いつも私を抱きしめるだけ。耳元で可愛いって囁いて。それだけで私は金縛りにあったみたいに動けなくなる。その毒を含んだ言葉で呪いがかかる。
両親が帰ってこない日は、ベッドで一緒に寝ることが増えた。私がベッドで寝ていると、雅哉も当然かのように布団に入ってくる。もう面倒くさくて拒否するのもやめた。
雅哉は一切手を出してこない。抱きしめられる温もりの心地良さと同時に私の不安な気持ちを掻き立てた。
「卒業したら毎日一緒に寝れるね?」
「うん。そうだ、ね」
「早織は嬉しくないの?」
抱きしめる力が強くなった。雅哉は私に何を求めているの。私がどう映ってるの?
「ううん。嬉しい」