第1章 仮面を被った悪魔
玄関まで何も話さなかった。玄関に着くと手が解放されて少しほっとした。
他の生徒たちも多いからだろう。また雅哉はいつものみんなに向ける甘いマスクに戻る。
雅哉は顔が整っている。それに勉強も出来る。非の打ち所のない彼は俗に言う人気者だった。
ファンは絶えないし、一緒に帰っている時だって視線を感じるのは当たり前。
今日も私たちの周りは騒がしい。
かっこいいだとか、早織ちゃんが羨ましいだとか。みんな騙されてるのに。変わってほしいくらいだよ。
兄妹とは言っても私たちは血が繋がっていない。親同士が再婚して、紙切れひとつで赤の他人から家族になった。
あれは私たちが5歳の時だった。そこら辺のファミレスだった。私の隣にはお母さんが座っていて。目の前には知らない男の人と、私と同じくらいの男の子。
その男の子は同い年だったけどすごく大人びていて、かっこよかった。こんな子が今日から私と家族になるなんて信じられないって思った。
『よろしくね。早織ちゃん』
『よろしく、お願いします。雅哉くん』
そう言うと彼はにっこり笑っていたのを思い出す。あの時は穢れを知らない、本物の笑顔だった。
私たちは一体、どこでおかしくなってしまった?
隣を歩く雅哉はもう、あの時の雅哉じゃない。良き兄を演じて、私を苛めては楽しむ最悪の人。そして
____私の大嫌いな人。
家まであと10メートルくらい。先程とは違いスタスタ前を歩く雅哉。
もう、負けたくない。流されたくない。、
「ねえ雅哉。私ね、今度から友達と一緒に帰りたい」
「は?」
歩いていた足を止めて振り返った。
怒ってる。雅哉は私に反抗されるのがよっぽど嫌いだ。
「お前、自分が何言ってんのかわかってんの?なに?、俺を怒らせたいわけ?」
「ち、ちがう。私のお願いも、聞いて欲しいの」
「お前に拒否権なんて最初っからねえんだよ」