第5章 恋人 - 定義と認識 2*
それは自分自身も一等、気にしていたところだった。
なんなら、幼少の頃は『ゴリラ』などというあだ名をつけられていた、嫌な思い出が脳裏に浮かぶ。
「私は女らしくなんてありませんから………だから」
「そんなキミに俺も恋をした。 能力が高いということだ。 誇っていい」
「────……」
「ん? 何やら大人しくなったな。 そうだ、今から地下に案内しようか」
────小学生の時、初恋の相手にからかわれた。
『メスゴリラ!』と。
………自分が恋愛に消極的だったのはそのせいだ。
好意を持っていた相手の、怯えや蔑みが交ざったあの眼差しを、忘れることなんて出来ない。
透子自身、馬鹿馬鹿しいことだと思う。
きっと他人に話しても、こんなのは笑い話になってしまうんだろう。
スポーツは出来る方だったから、周りから褒められていたせいもある。
羨ましいとか、是非うちの部に! そんな風に言われてきた。
だから誰にも言えなくなった。
今までひた隠しにしてきた、『その理由』がこんなことだと聞いたら静は呆れるだろうか────笑うだろうか。
『誇っていい』
彼のただひと言で。
自分でも忘れるほどに諦めていた、沼に漂っていた心の一部を両手で優しく掬われた気がした。
そして静が階段を降りながら話し続け、透子は、
「最初に会った時に、キミを組み伏せるのも………ああ、あれはやたらと印象に残ったな。 手がかかるのは変わらないが………俺はただキミが愛おしいのだと、今はそう思う」
……なぜだか泣きそうになった。