第5章 恋人 - 定義と認識 2*
指輪を返したら、元に戻るだけだ。
中途半端な気持ちは失礼で迷惑しかないと分かったし。
それで静に向かって再度手を出したが、ぽんと拳を彼の手のひらの上に置いた。
「………お手?」
「いや、それはこっちのセリフ」
ぽかんと透子を見る静の前で、彼女が困惑気味に口を開く。
「な、何でしょうか。 手が、嫌がって………?」
しまいにもう片方で手首をつかみ、「うぐっ」と気合を入れて開こうと焦る様子の透子を見ていた静が………噴いた。
「すみません。 あの」
くくくと顔を背けて笑い続ける静に、弱りきった表情の透子が言う。
「あの………これ。 私、お返ししたくないみたいです」
「いい、別に……ふっ…くく…っ。 ふふ…キミは、なんというか。 恋をしたことがないんだな」
「失礼な。 ありますよ!」
「フ…そうかね?」
余韻治まらずといった静が目尻を下げて訊いてくるので、今までの自分の過去を思い返した。
「ふと見たらドキドキしたり、相手の新しいことが分かるとなんだか凄く嬉しかったり………これって、恋ですよね」
「まあ、そうなのかな」
視線をめぐらした終着。 静の、琥珀が陽に当たって緑がかった色の瞳とぶつかり、自分の今の感情をあらわすと、この結論にいきあたる。
「それでは、私はちゃんと今恋してます!」
「プッ!」
勢いよく言った透子に、再び盛大に噴く静だった。
憮然とし、段々と顔を赤らめる透子が言い訳を探す。
「ご…めんなさい。 実は私は今まで、男性とお付き合いをしたことがなく」