第5章 恋人 - 定義と認識 2*
「あともう一つ。 服装やなんかは、些末なことだな。 西条の会社………まあ、それなりに名の通った所だ。 報酬もそれ程悪くないと思う」
そういえば、静はいつも過剰なほど良い身なりをしている。
彼の言葉の続きを待った。
「そんな中で未経験のキミが入ると、第一印象として周りにどう思われるか、正しく言えばどう扱われるか。 ああいう類いの見た目はただの防御だ。 中途半端な頭の輩ほど、パッと見で人間を下に置く。 あそこにキミを推したのは俺だし、余計な思いをさせたくない。 そんなものとは関係ない所で、人は評価されるべきだと俺は思う」
しばらくして透子がポツリと呟いた。
「逆、なんですね………」
「なにがかね?」
気にし過ぎていたのは自分なんだと。
きっと最初から持っている人にとっては、そんなのはささいなことなのだろうと思った。
「私のつまらないコンプレックスです。 私と一緒にいて、実は静さんは、恥ずかしい思いをしていたのかと、そう思ったんです」
「キミは育ちがいいと言ったはずだが………こちらの言葉も足りなかった。 礼儀正しく惑わされない。 おそらく、あんな防御などキミには必要ないのだろう。 余計な世話を焼いた」
「それは、買いかぶり過ぎです」
「そうか」と言い、静が手のひらを上に向けた。
それを目で問う。
「返してくれればいい。 俺はキミの重荷にするためにそれを買った訳じゃない」
「あ、はい」