第5章 恋人 - 定義と認識 2*
結局、彼を見返しながらもしぶしぶと元のベンチに腰をかけた。
「………恋人にプレゼントを贈るのは、そんなにおかしなことかね」
青木が座っていた場所に、今度は静が腰をおろす。
透子は黙っていた。
「店頭で見かけて、キミに似合うと思った。 二、三日考えて、結局俺はそれを買った。 いつかキミが俺の恋人になってくれたら贈ろうと」
「………」
「………すぐに買わなかったのは、そんな日が来るなんて思えなかったからだ。 贈れない物を傍において、埃を被っていくさまを見るのは、なかなかに辛いから」
前を向いて足を組み、淡々と静が話してくる内容が意外すぎた。
「それは………でも」
「そんな時にキミは、至極冷静に関係性の定義がどうだとかを考えていた訳だ。 身勝手だが、車内でも今も、俺は結構傷付いていたらしい」
謝ることなのかは分からない。
「ご、ごめんなさい………」
それでも、自分は相手の純粋な好意を踏みにじったらしい。 それぐらいは理解出来る。
「キミは根っから生真面目なんだろう。 早々に手を出したのはこちらだ。 謝ることは無い、が。 やすやすと相手に気を持たせるのはやめた方がいい。 泣く男が増える」
横を向いた静が笑いかけてくる。
それがどこか寂しげで、胸が痛んだ。