第5章 恋人 - 定義と認識 2*
「勝手にペラペラと。 分をわきまえろ」
短く言い放った静に対し、すぐに立ち上がった青木が深く腰を折る。
「………申し訳ございません」
「国立に較べて、お前は節介過ぎる…まあいい」
静が顔を邸内に向け、「は」と一礼したのち、青木が早足で家の中へと向かって行った。
そんな双方のやり取りに、口を挟み損ねた透子が非難を込めた表情をした。
「静さん。 青木さんは心配して来てくれたんです。 ああいう言い方はないでしょう」
「言い方?」
「やっぱりこれ、お返しします」
立ち上がり、指から外した指輪を手に乗せ静へと伸ばした。
その手を一瞥した静が、組んだ腕をそのままに言う。
「理由は」
「いただく理由がないからです。 私は静さんが私を思って下さってるようには、静さんのことを思っていません。 こんな自分には、受け取る資格はありません」
認識の違い。
それならば、自分が全て相手に合わせる必要はないはずだ。
「そんなことは分かっている。 キミは嘘つきだから」
「え?」
その間、表情を変えなかった静が目を閉じ、額に軽く指先をあてた。
「………まあ、座りたまえ」
「それから、あの服なども。 静さんが私をみっともないと思うのは仕方ないですが、それなら私には合わな」
「座れと言っている」
「────」
最初から、この人のこういう所は嫌いだ。
自分中心で、何でも他人が言うことを聞くと思っている。
それでも冷たささえ感じさせる、静の物言いと目つきにひるむ。