第1章 お見合い、のち災難
「それに、当初は白井沙紀の縁談だったはずだ。 それでキミが相手だと知らされたのは今日。 義理を欠いていると思わないか」
「それなら、八神さんが私を断っていただければ済む話ではないですか?」
「男側から断れば女の家に傷がつく。 当然のマナーだろう。 だからこうやってわざわざ俺が無駄な時間を使っている」
「無駄って誰が頼ん」
「それよりも、元々あの家は一人娘だったはずだ。 お前は一体誰なんだ?」
先方が距離ナシでしかも矢継ぎ早に話しくるせいで、口を挟もうにも挟めない。
「だから近いですってば! 貴方こそいきなりなんですか」
相手の脚が自分の腿に当たっているのもあり、透子が上半身を背けた。
するとうなじの辺りに、何とも言えない生暖かいものを感じ、思わず肩をすくませた。
「フン……素性などすぐにバレる」
そこに息が当たる程近いからだと気付くと同時に、自分の背中と膝がシートから浮く。
気付けばあっという間に男性の硬い胸のなかに抱きすくめられていた。
「あっ…っ!」
透子が慌てて声をあげた。
元来小柄ですばしっこい透子の性質が密室中ではアダになる。
逃げようにも逃げられなかった。
全体的には細身の男性は透子を隠してしまうほど大きく、ことの他に力強かった。