第5章 恋人 - 定義と認識 2*
「透子様」
「あ、青木さん、どうしたんですか」
屈んだ体勢で話しかけてきた青木に、透子が立ち上がろうとした。
「どうぞそのままで」と言われたので、また腰を落とす。
「どうも透子様がおかしいと、静様が困ったご様子でしたもので」
「………見てこいとでも言われたのですか?」
どちらかというと独りになりたかったのもあり、つい、うがった言い方をした。
「いえ。 わたくしが気になって。 失礼ながらお隣に掛けても?」
無言で場所を空けた透子の隣に青木が座る。
さっきまで立ちっぱなしでいたのに、今座っていても、シャンと背筋が伸びている。 そんな青木を見て透子も姿勢を正した。
「………ランチの時は、気を使っていただいてありがとうございました」
「なんのことでしょう?」
「私にはお箸を出して下さいましたよね」
静のお皿の周りには、ナイフやフォークが並んでいたと思い起こす。
「ああはい。 あれは静様のご指示です」
確か、先週末に静に連れていってもらったのも、カジュアルな和食のお店だった。 と、思い巡らした。
「私はテーブルマナーを知らないですから………」
そんな風に自分は気を使われていたということだ。
けれども、静のことは。
たとえ地位などがあろうと、自分がリクルートスーツでも、気にしない人なのかと思っていた。
青木が控えめな様子で口を開く。
「のちのち覚えていけば宜しいことかと存じます」
「………覚えなければ…ならないんでしょうか」
「せん越ながら………テーブルマナーよりも、お客様がいかにくつろいでお食事を楽しんでいただけるかが、わたくしどもにとっては一番大切です。 当然お迎えする静様も、そうお考えでしょう。 それが大切な方ならば、なおさら」
青木が遠慮がちにだが、やんわりと透子に意見を述べた。