第5章 恋人 - 定義と認識 2*
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なんとも言えない嫌な気持ちだった。
こんな顔を見せたくなく静と離れた。
なにかのブランドの、きっと高そうなものだ。
しかも、あんなにたくさん。
あんな物を欲しいと思ってるんだろうか。
自分の好みが無いとでも思ってるんだろうか。
「ただの押し付けじゃないの」
怒りか寂しさかは分からない。
ただ薄黒いなにかが喉につまったような。
「────透子様、どちらへ」
透子が歩いている途中、ホールで青木と鉢合わせた。
「………お庭を見てきます」
ティーセットを載せたトレイを手にした青木に断り外に出る。
………そもそも、ちょっと外に出るだけで行き先を言わなきゃならないなんて。
ザカザカ歩き、まもなく気持ちが落ち着いてきたので、歩をゆるめた。
大きなススキらしき植物の傍にベンチを見付け、そこに腰をおろす。
「窮屈だなあ………」
つい、そんなことを呟いた。
静は優しいし、良くしてくれるのは純粋な好意なんだろう。
白井の家は真逆だ。
………なのに、どっちも息苦しい。
『キミのことを知るたび借りが増えていく』
そこまでの気持ちを自分は持ってないと、そう思う。
右手に光る指輪をじっと見詰めた。
瑠璃色に線を引く中にある透明な石は、夜空を思わせる。
これも自分に取っては『借り』を通り越し、むしろ負担に感じる。
地元の職場の人や友達は元気だろうか。 ほうと息をつき、穏やかな風に遊ぶ、ススキの穂をぼんやり眺めた。