第5章 恋人 - 定義と認識 2*
「でも、そのあと何となく思ったんですけど。 静さんも、貸し借りをそのままにするのを好まないですよね。 その時の言葉はなくとも、ちゃんと返すのを忘れない人です」
ピチチ、と鳴る小鳥のさえずりにか、静が目を細める。
「俺のはそんなものではない。 キミのように、育ちがいいわけではないからな」
こんな家に住んでいて、育ちが悪いとでもいうのだろうか? 周りを見渡した透子が不思議そうな顔をした。
「だが俺は、あの時────実は嬉しかった。 俺に謝れなどという人間は今までいなかったから。 キミのことを知るたびに借りが増えていく。 こんな気持ちを、世間では恋などと言うんだろう」
お茶を飲みかけた途端に、むせそうになった。
思わず窓ぎわを見ると青木が無表情で佇んでいる。
よくもそんなことを、人前で恥ずかしげもなく。 逆に緊張して赤くなっている透子に、立ち上がった静が近付いてきた。
横に立ち手をすい、と取る。
「だからこれは俺からの借りだと思って欲しい。 透子、おいで」
いつの間に左手の薬指にはめられたこれは。
深い青………瑠璃色の石がついたリング。
なんで、いつ?
「い、いきなりこんなものいただく筋合いは」
「先週用意した。 そういうものを見たら、キミが俺に会いたいと思ってくれるかも知れないだろう?」
「当面は毎日会うわけですが」
「気にするな。 キミの誕生日にはもっといい物を用意する」
いいえ気にします。